贈り物の種

清水博先生のお話を聞くたびに、いつも、東本願寺の二枚の看板を思い出していた。2012年3月、当時82歳だった父が心臓弁膜症の手術を受ける日の朝のこと、看板に書かれた言葉に、はっとした。

「バラバラでいっしょ」

別々でも同じ人間、それとも、互いが別々の個を保ちながらひとつに融け合うイメージ。 続きを読む

目に見えない小さな生き物

二年ほど前、国立科学博物館(科博)のミュージアムショップで、素敵なモノクロームのカレンダーを見つけた。不思議な貝殻のような物体の写真が50個以上もちょこちょこと、大判の紙一面に並んでいる。トゲトゲや渦巻き、イガイガのほか、繊細なレース模様や小さな規則正しい穴に表面が覆われているものなど、見て飽きることのない自然のデザイン。 続きを読む

般若心経への誤解を解く

2005年に『無明の闇を照らす般若心経』(朱鷺書房)を出してから、14年ぶりの新刊が明窓出版からまもなく刊行されます。

『あなたがはじまる般若心経ver.1――問題は解決を求めて現れる』(明窓出版)

本書は、これまでわかったようでわかりにくかった般若心経について、すっきりとした読み解き方を提示するものです。

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無知の「知」と自分の意見

戦後70年の8月、憲法について意見を求められ「わかりません」と答えた。改憲についての議論を多少は耳にしていたし、今の平和が9条のおかげではないことも知っていた。ただ、あまりにも無知で、「改憲」とも「護憲」とも口にできなかった。

SNSでも世間のいろいろなことに対して思い思いに自論を展開する人がいる。具体的な背景は知らないが、それぞれに理由があるのだろう。 続きを読む

驚いた話

スーパーシニアのご活躍は、私にとって身近なものだ。
場の研究所所長・清水博先生は、この11月で87歳。居場所と〈いのち〉の問題について、精力的に発信し続けておられる。
5月にお目にかかった微生物の専門家・平井孝志先生は89歳の父と「同年兵」。
10月にお目にかかった中国問題の大家・伊原吉之助先生も同じく卒寿。
明晰さには憧れるばかりだが、なぜこれほどまでにアクティブなのか。

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呪いと祈り

昨日は上野の東京国立博物館で「マジカル・アジア――博物館でアジアの旅」を見てきた。昨秋、「木々との対話──再生をめぐる5つの風景」東京都美術館のガイドツアーがよかったので、今回は「呪いのパワーを探す旅」というツアーに参加したら、ネーミングのせいか大盛況で、ゆっくり見て回るのはツアー終了後になった。
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温故知新の石油化学技術――国立科学博物館産業技術史講座にて

ずっと昔、酸素窒素の業界で取材をしていた。見慣れない技術用語に圧倒されながら、せっせと過去の記事を読み、那野比古さんの半導体の本を持ち歩き、図書館でレーザについて調べた。工業ガスの技術用途は、鉄鋼、化学、半導体、食品、医療など幅広い。炭酸ガスやアセチレンと書いたところで、溶接のことも金属のこともまったくわからない。「ナフサ」という言葉は技術者との会話によく登場したが、それが何なのかも知らずにいた。
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「幸せ」を意味するウェルフェア―1

知り合いのアメリカ人に「子どもの心」の英訳を尋ねたことがあった。てっきり“Heart”という言葉を使うと思っていたら、返ってきた答えが”Children’s Welfare “を含む長いフレーズで、驚いたことがある。数人の大学の先生が話し合ってそれがいいということになったそうだ。
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峠の時代の〈いのち〉と富の話(2) 清水博氏講演・「親鸞仏教センターのつどい」にて

生も死も〈いのち〉のドラマに力を貸す
生き物から居場所へ〈いのち〉を与贈すると、居場所のシステムが、自己組織的に生成します。ここに〈いのち〉のつながりが生まれ、居場所の〈いのち〉が今度は生き物へとプレゼントされます。これは、自己組織が進んでいくことによって、「縁」の世界が拡大しているためです。このしくみによって、〈いのち〉のドラマの生成が進行していくのです。
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