無知の「知」と自分の意見

戦後70年の8月、憲法について意見を求められ「わかりません」と答えた。改憲についての議論を多少は耳にしていたし、今の平和が9条のおかげではないことも知っていた。ただ、あまりにも無知で、「改憲」とも「護憲」とも口にできなかった。

SNSでも世間のいろいろなことに対して思い思いに自論を展開する人がいる。具体的な背景は知らないが、それぞれに理由があるのだろう。昔、某紙の記者時代、ジャーナリストとは「いつでもどこでも世界史が語れる人である」と言われ、深くうなだれた。政治・経済・歴史に強くなるしかない。

ごく最近になって、いっぱしのことを言う人に、実はさしたる知識がないかもしれないと気づいた。遅ればせながら歴史の勉強をして、すすめられた本を読み、「これはさすがにおかしい」と感じたのだ。内容もさることながら、出版物として感情的にすぎる表現や、一方的な決めつけに疑問符がいくつも浮かんだ。事実関係も何やらおかしい。

調べると、著者の評判と経歴は感じた通りのものだった。その本がよく売れているのは、この不快なトーンに違和感がない人が多く、その人たちは初めから著者の意見に諸手を上げて賛同しているためらしい。専門家もいろいろである。

無知の「知」組在籍者として、下記5冊を必読書とする。拓殖大学で何度か国際講座を聴講してよかった。
◎渡辺利夫『アジアを救った近代日本史講義』――学生向けの講義として平明かつ公平な内容。解説が丁寧で初心者にうってつけ。「拓殖大なんて右でしょ」と言う人がいたが、そういう人もこの本を読めば、自分の無知を知ることができる。
◎佐瀬昌盛『集団的自衛権』――防衛大名誉教授。拓大で講義を聞いたとき、安保法制懇のメンバーの選定と資質に、「ちゃんと資料を読んだのか」と怒っていた。プロ中のプロ。『朝日新聞は真実を伝えているのか?』は面白すぎる。
◎江藤淳『閉ざされた言語空間』――占領軍の洗脳(WGIP)について一次資料に基づいた調査を発表した衝撃作。WGIPのことは藤原正彦、ケント・ギルバートが繰り返し書いている。よく知られる事実だが、ベストセラーになった『戦後史の正体』(孫崎亨)ではなぜか触れられていない。
〇谷沢永一『悪魔の思想』――「ヤメ共」が語るコミンテルンの真実と文化人批判で高い評価を得た。
〇長谷川三千子『民主主義とは何なのか』――山本七平と小室直樹の対談『日本教の社会学』を斜め読みした時に、「民主主義は死を賭して得るもの」とあった。そのあとたまたま観た映画の予告で「自由だ! 自由だ!」と字幕が出たとき、英語音声が”Liberty or Death!”で、なるほど、と思った。

結局のところ、戦争や憲法や民主主義について、誰が何をどう知っているかなんて、きちんと聞いてみないことにはわからない。