本より前にカラオケを

土曜日、本づくりの打ち合わせで関西へ。書き溜めた原稿をまとめるにあたって、真っ先に確認したいのはやはり、その方が「何が好きか」ということ。好きな花は何か、好きな食べ物は何か。要は、どんな方なのかを詳しく知りたいのである。

本のつくり方は、ジャンルによって天と地ほどもちがう。商業出版の場合、何かのタイミングに合わせた出版であったり、学術系出版物では著者の数がやたらと多かったり、手のかけ方も編集者の役割も発行までのスピードも、あまりにもちがう。そういうわけで、ひと口に出版だの編集だのと言っても、同じイメージを共有できていないことのほうが多いかもしれない。

誰が書くか、書いた内容に責任をもつのは誰か、内容に対して問い合わせが予想されるかなどを考えると、編集者が細かな疑問を呈してはかえってスムーズに行かないジャンルも一部にあり、まさにケースバイケースである。時々のニーズに合わせて根気よく取り組むのだけは、おそらく共通している。

そこへ行くと、自費出版は、あくまで本を出す人が主役だから、その人が満足することが何より大事になる。「そんなにこだわりません」という人もいるかもしれないが、せっかく時間とお金を使うなら、「作ってよかった」と満足できるものにしなければならない。本のイメージにその人らしさが出ていてほしい。そうでなければ意味がないとも思う。

そこで、好きな色を聞いた。以前から存じ上げているその方は、鮮やかな赤が似合う。あまり地味な本にはしたくない。持参したipadで、いろんな色を見ながら、イメージを確認する。そういえば、と言って、気に入りの洋服などもってきてくれる。ビビッドな色。どちらかというと、暖色。内容は専門の話題ながら、誰が読んでも楽しめるもの。ここはひとつ、おしゃれな装丁にしたいところ。考えるだけで、わくわくしてくる。

話しているうちに、夕食時になり、一緒に食事をとったあと、なんとカラオケへ!
歌の好きな人だと、はじめて知った。そして、すこぶる美声。越路吹雪を何曲も続けて歌ったあと、松田聖子、キャンディーズ、ユーミンと懐かしい曲を一緒に歌った。こんな素顔を見せてもらえるのはなんとも楽しい。そして重要な情報でもある。

帰宅してから、何となく音楽が聴きたくなって、布施明のCDを聴きながら眠る。母を連れて何度かコンサートに行ったことがあった。昔の曲は、今ふうの「君と僕」しか出てこない歌とちがって、ストーリーがあって素敵だった。

世界的な美女オリビア・ハッセーとの結婚やアメリカでの歌手活動など、普通の人にはない経験をしたはずなのに、苦労話ゼロであっさりしているのは東京っ子(府中だけど)らしい。悪ノリして「君は薔薇より美しい」を、大きな扇子を振り回して踊りながら歌ったり、妙なひとり芝居を含む演出も毎回楽しい。しかし還暦すぎてもよほどトレーニングをしているらしく、カンツォーネ歌手ばりの「Time to Say Good-Bye」など、決めるところは決めてくれる。

誰かの好きなものを知ることは、自分の好きなものを思い出させてくれる。
あとで、「実は聖子ちゃんより明菜派なので、次回は明菜ちゃんを歌いましょう!」とメールが来ていた。
次にお会いするのが楽しみである。

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