認知症高齢者の自立について

11月の公衆衛生学会のポスターセッションの準備として、10月3日、NPO法人日本認知症予防研究所の先生方のご発表を聴く機会があった。

健康に関するさまざまな調査は、得られたデータを統計学的に分析し、疫学的に解釈してはじめてひとつの形になる。統計や疫学については、書籍の編集でかすかに得た知識はあっても、やはり難しいことだらけである。が、テータの処理が確実にされていないと、せっかくの調査がだいなしになる。

研究会は、そのあたりの重要なところをブラッシュアップする意味合いもあるらしく、國分恵子先生からの案内に、結核研究の大家・森亨先生がコメントされると書かれていたので、素人ながら末席に座らせていただいた。

認知症予防という大きなテーマのもとに、今回は、介護保険申請をして介護認定を受けた認知症高齢者が対象の3本の報告がなされた。いずれも認知症高齢者を5年間追跡した研究で、自立度と意思疎通、有病率について調査データを集め、分析されていた。

自立と聞くと、日常生活動作(activity of daily living:ADL)のことがまず頭に浮かぶが、ここでは、「寝たきり」にならないだけの自立度があるかを調べる「障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)」が用いられていた。

障害高齢者の日常生活自立度(寝たきり度)

「寝たきり度」の表では、判定ランクは、高い順から、J、A、B、Cと並び、Jは、交通機関を使って外出もでき、立派に自立して日常生活を送ることができる、高齢者としては理想的な状態である。

リハビリテーションの対象になるのが、次のAとB。つまり、なんとか機能を維持して、自立して日常生活が営める人たちである。食事や入浴など、いわゆるADLに含められる基本的な動作より、意外にも感覚機能が維持されるという話も興味深かった。

同じ「自立度」でも、「認知症高齢者の日常生活自立度判定基準」というものもあり、意志疎通についての研究は、こちらの調査項目に沿って行われていたようだ。

認知症高齢者の日常生活自立度判定基準

記憶について出た話で面白かったのは、「見当識」の話である。認知症では、俗に、「見当識」の障害といって、今自分が存在している時間的、空間的、社会的な位置づけがわからなくなる。「いつ」「どこ」にいて、「誰と何をしている状況」かについて、混乱をきたすのだ。このうち、「自分の名前」は、記憶から脱落しにくいとの結果が出ていた。

ケアの際の言葉かけでも、必ず「名前を呼ぶ」ことが大切にされている。自分の名前は長期記憶に属するものだから、短期記憶に比べて保たれやすい。それに、自分の名前を呼ばれることは、どんな人にとっても嬉しいことである。

また、学校の黒板のように、「〇月〇日〇曜日」「ここはどこどこです」「お天気は晴れ」と書いたり、自分でカレンダーに印をつけるなどして、見通しをつけることが、機能維持に大きな影響があるらしい。よく介護の現場でも「自立支援」といって、手を出して世話をしすぎないことが大切といわれるが、できることをなるべく自分で、というのが、脳にはよい影響を及ぼすものらしい。

あまり専門的なところはわからなかったが、森先生からは、データの並べ方についての指摘(調査項目の順より、数字の大きい順に並べたほうがわかりやすい)や、「『罹患率』より『有病率』を使うほうがよい」、「多変量解析で、バラバラのfactorを一緒に組み込んで」などと、専門家らしいコメントがあった。

昨今、若年性認知症が増加している背景として、「過剰に便利になったライフスタイルが脳に悪影響を及ぼしているのではないか」という國分先生の指摘も、やや身につまされた。車はオートマ、道案内はカーナビにおまかせ、電話番号も登録してあるので、自分の指で押すこともなくなった。頭を使わないですむことが、生活の中に確実に増えている。グーグルの「自動運転する車」などは、不自由を抱えた人には便利かもしれないが、どこも何ともない人が使えば、失う機能という意味で、高い代償を支払うことになりそうである。

「東京オリンピック以降に生まれた人があぶない」などと言われたのにも、ギクッとした。その他、脳に好影響を与える料理の効用、五感をフルに使った昔のかまど炊きのご飯の話、ピーラーより庖丁を使うほうが脳によいなどと聞いて、ピーラーが使えない私は、少しだけ胸をなでおろした。

自立度については、障害のある人に用いる国際生活機能分類(International Classification of Fuctioning, Disabilities and Handicaps:ICF)や、機能的自律度評価尺度(Functional Independence Measure:FIM)などもあり、状況によって使い分けされている。

国際生活機能分類(International Classification of Fuctioning, Disabilities and Handicaps:ICF)

こういう場に居合わせないと、耳にすることがないと思ったのは、「介護保険の自立度の調査項目にやや疑問がある」(と言われたように聞こえた)との発言。誰もが共通した尺度でものごとを見て、はかるためのツールは、当然必要だが、それをつくることは難しいそうだ。

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