新年の偶然と本

2013年の正月は、11年ぶりに生まれ故郷の兵庫県豊岡でゆっくり過ごした。東京からは軽く5時間あまりの距離があり、行きは京都、帰りは大阪を経由した。帰京の途中に一年ぶりに大阪の知人を訪ね、夕食をご馳走になった。料理上手なFさんとは、昔フランス語を習いに行った学校で知り合った。外資系銀行勤めのその人は、はじめて目にするキャリアウーマン。第一印象は声の魅力だった。ソフトなアルトなのに涼しげで楽しそうな話し方。キャリアウーマンの本物は、肩肘も張らず目も吊り上げないことを、実物から知った。大阪で小さな新聞社に転職した私を、「勉強になりそうだからいいんじゃない?」と励ましてくださったりもした。

人生的キャリアでは大先輩のFさんと、その後何かのきっかけで、近いところに興味があることがわかり、野口整体を紹介したり、ゆる体操や真向法を教えてもらったり、面白い本を教え合ったりするようになった。野口整体の創始者・野口晴哉(はるちか)がいかに素敵な男性であるか、城山三郎の小説は抜群に面白いのである、田辺聖子の古典の教養はすごい、英語教育より重視すべきは日本語教育である、EBM(evidence based medicine)には問題があるのでは、などの話はもちろん、とくに食事や健康のこととなると、玄人同然の彼女から学ぶことは山ほどあった。

新年早々、またしても似たようなものに興味のあることがわかり、久しぶりにちょっと驚いた。昨年来、細かな文献チェックの作業の中で、なぜかバイオフィードバックを調べたい気持ちに駆られ、昔読んだ「明るいチベット医学」という本を購入したり、日本で心療内科を始めた池見酉次郎博士の書籍数冊を入手して、今年の課題図書にしようと思っていた。心の状態と肉体の健康に話が及び、ふと池見博士の話をしたら、Fさんも池見博士の「心で起こる体の病」という本をもっているという。聞けば30代の頃に勉強したいと思い買ったという。古く貴重なその本を、藤田紘一郎氏の感染症の本と一緒にお借りした。

book

まさかFさんのところで池見博士の本に遭遇するなんて思いもしなかった。まず今年、元旦から田舎で過ごすと決めなければ、帰京の途中にFさん宅にも寄らなかったし、その前に自分が池見博士の本を買っていなければ、そもそも話題にすることもなく、それ以前に延々と文献をチェックしなければそれを買おうとは思わず、その前にその仕事を頼まれる状況になければ、池見などという人のことも知らず……などと考えると、何がどこにつながるか、いくら考えてもわからない。

昨夏、不注意からノートパソコンの液晶画面を割ってしまい、8月半ば前、慌てて修理してくれるところを探した。運よく休みに入る前に直してくれるところがあり、パソコンを受け取りに末広町の駅で降り、歩いていた。何気なく店先を見た古道具屋に、7年あまり前に自分が手放した鏡があった。ピエロのついたその鏡は、神戸に住んでいた頃に気に入って買い求めたものだったが、今の家に越してくる時、気分を変えようと思ってか処分したらしい。同じものがそうたくさんはあるとも思えず、これは再会だなと思ってまた購入した。パソコンが壊れなければその場所には行かなかったことを思うと、これまた偶然の不思議を思わずにいられない。

藤田  小峰書店

  ぼくもきみも
  出会うという
  覚悟がなかった
  きみには…きみのわけがあろう
  ぼくは出会いが好きだったのだ!

ロルカの「出会い」という詩の一節を思い出す。

今年もきっと、不思議な偶然にたくさん出会えるにちがいない。

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