読書日記――武田龍夫、河添恵子

🔶武田龍夫『外交官日記』(1983、1996)

元北欧担当の外交官が大使館窓口の何でも屋として60年代後半から70年代にかけて遭遇したさまざまな事件をユーモア小説として描いた作品。

詐欺師や「ブルーピース」も出てきて、笑えるものあり、笑えないものあり。捕鯨問題では日本代表が赤ペンキをかけられたり、日本の国旗や日本人をかたどった人形が焼かれたりと、どこかで聞いたような話も出てくる。

――外圧に弱い日本だけは安心してぶんなぐられるのだ。

――まったく国際捕鯨の実情もよく知らずに、己れ一人賢しとして、超理想的立場から説教を垂れる、こういう評論家の意見ほど世間知らずで無責任な議論はない。

三十数年前の本とは思えない。第三者の台詞も効果的に挿入されている。

「罪ありマスメディア」の項で某教授の語る言葉は、まるで今の日本に対するもののように生々しい。

「新聞は、たとえは悪いが節操のない娼婦のようなもの」

「自由な民主主義社会はみずからを破壊しようとする言論や集団結社の存在をも許す寛大な美徳をもつ社会であり、そのゆえに、いよいよ容易ならない時代に入っている今、自由主義社会がもし滅びるとすれば、それは悪徳によってではなく、その寛大さによってであろう」

日本に特派された外国人記者の言葉も、そのまま現代に通じる。

「いかなる事態も起こりうるのだ! パーンタレイさ!※ だから、われわれのもっとも避けなければならないのは、硬直した思考なのだよ」

   ※パーンタレイ――万物は流転する

 

 

『新隣国論』(2007)

米、中、韓、北朝鮮、ロの5カ国の国柄と日本との関係を簡潔にまとめ分析する。記述の一端による特質はそれぞれ、「独善的」「虚言症」「偏激」「小中華」「力と現実の信奉者」、ついでに日本は「お人好し」「無策」である。深い世界史の教養と膨大な公文書・資料にもとづくがゆえに、序章から記述はシビアになる。

――国際関係とは、言い換えれば、「宗教と経済」を動因とする(マーシャル)エゴイズムの衝突と妥協の関係……

――「日本は戦争を反省して平和憲法をつくった」という主張なども明白な誤りだ。私に言わせれば、それは無知か意図的な断定である。

日本を国際的に貶める事件が「あり得ない」ことを、文化的側面から例証し、「歴史の虚偽と偽造は絶対に受け入れる事は出来ない」と述べる。同時に、実務家としてクールに現実を見据えている。

 

 

🔶河添恵子

『トランプが中国の夢を終わらせる』(2017)

日頃硬派な作家が、得意の歴史と国際情勢の知識を駆使してゴシップもふんだんに盛り込んだ一冊。的外れのレッテル貼りや脅迫、ハッキングなど何のその。徹底的な取材と分析は、いつも通り切れ味抜群。

ハリウッド映画が面白くなくなった理由とメディアの機能がよくわかる。本書は多彩な登場人物を縦横無尽に取り上げ、暗殺や女スパイの話などあって映画並みに面白い。

杉田水脈氏との対談『歴史戦はオンナの戦い』(2016)と併読すると面白い。紅に染まる国際機関、被害者ビジネス、左翼活動家の行動も具体的に語られる。ありもしない慰安婦問題に杉田氏は果敢に抗議する。ある組織がこれをジュネーブの国連本部脇で常駐監視していると知り、空いた口がふさがらなかった。

YouTubeの林原チャンネルでは、河添氏と馬渕睦夫大使との対談(しょっぱなに「私はスパイではありません」「私もです」と言うのが可笑しい)において、日本にも多い工作員の人物像や行動を具体的に語っている。メディアの機能がさらによくわかり、内容はなかなかショッキング。メディアをここまで反日的にした理由には言葉もない。(河添恵子#8-1, 8-2)。