あるとないとでおおちがい

洗濯機やトイレのボタンの脇などによく点字がついている。小さな点がいくつか浮き出て、その組み合わせが文字になっている。それに指で触れる必要のない人には模様のようにも見えるが、その小さな突起はれっきとした文字である。文字があるといろいろな情報を共有することができ、生活する上での大きな助けになることはいうまでもない。

つい20年前まで携帯電話は、無線機の扱いがわかれば、目の不自由な人にも使える道具だった。最近は、音声コードに対応する電話を使いこなしてメールを送れる人もいるが、まちがった相手に電話をかけたり、携帯電話の操作に苦労する視覚障害者もいる。ボタンの代わりにタッチパネルになったものが増えたことなども、見えない人には不便なことである。

視覚障害者の家の中では、照明などの大きなスイッチにシールやペットボトルのキャップを貼って、さわるとわかるようになっていることがある。印がついているとその場所がわかる。場所がわかれば、それで十分操作が可能なものもある。それが「どこ」にあるかは、とても重要な情報なのだ。

大きいスイッチはまだいいとして、テレビのリモコンなどボタンの数がやたらと多いものは厄介である。30個を軽く超えるものはざらにあり、見えていても使いこなせないことも多い。切り替えボタンなど、大事なものだけわかればいいことにして、少しふくらんだ小さなシールを貼ると、視覚障害の人の役に立つことがわかった。

点字はもともと、フランスで考案されたという。考えたのは、けががもとで失明したルイという少年で、彼が16歳の時のことだった。点字がない頃は、紙に浮き出した文字を指でなぞって読んでいた。この頃、ある軍人が暗い場所でも手で触れてわかるような点でつくった暗号を考え出した。これがパリの盲学校に伝えられ、ルイ少年がさらに工夫を重ね、1825年、点字のアルファベットがつくられた。日本では少し遅れた1890年に、今使われている6つの点を組み合わせてひとつの文字を表す点字ができたという。

昨日乗った区役所のエレベータのすみに、三角柱の小さなボックスがあった。「救命ボックス」という文字は読めたが、その正体がわかったのは、そこに書かれた点字を読んだ人が教えてくれたからである。そのボックスには、万一エレベータの中に閉じ込められるような非常事態になったときに使える飲料水や食料などが入っていた。小さな突起の大きな意味がよくわかった瞬間である。