『摂食障害――見る読むクリニック』の出版トークイベント2―質問に答えて

出版トークイベントの後半は、フロアからの質問に著者が答える形で、摂食障害への理解をより深める時間となった。

質問者1:拒食症で体重が低下しています。縛ってでも(栄養を投与して)体重を増やすべきですか。
鈴木:成長期であれば経管栄養もしますが、20歳過ぎた人ではむずかしいでしょう。ことと次第によりますが、意識がなくなって管を抜くとあぶないので、抑制が必要な場合もないとはいえません。

西園:治療を計画的にやることが大切です。見通しがない時に、どこまで家で頑張るかの限界を定め、「このくらいの体重になったら入院して経管栄養」と決めておきます。回復しても次に悪くなったらどうするかもプランを立て、家族で共有しておきます。本人の状態がいい時に本人の意思を尊重して、次に悪くなったらこうする、と決めてサインをさせるようにします。

質問者1:思考力が低下していますので、いい状態があまりないのですが……。
西園:様子を見て一番いい状態でかまいません。低血糖の時はチャンスです。
鈴木:体重は大事で、ある一定以下になるとと飢餓症候群で、思考力が低下します。身長158cmの人が35kgを切ると、病的な人格となり本来のその人の思考力は出てきません。よほど自分にメリットがないと入院したくありませんのでこれだったら泣き泣き入院するという体重を決めて、たとえば28kgになったら「ここまで戻すよ」と強気で無理にでも入院させて、3か月から6か月かけて10kg増やすなどの方法もあります。これはある種の博打ですが、親としては見ていることに耐えられないので、やる価値はあるともいえます。体重が35kgを超えると、まるで人が変わったようにしっかりすることもあります。並行して精神療法やカウンセリングも行います。

質問者2:炭水化物を食べると、ムズムズ虫が這うような感覚があります。母は怒りますが……。
鈴木:それは有名な症状で、すごくやせると出ることがあります。「この豆腐の角を食べなければ大変なことになる」と声が聞こえたりする人もいます。栄養をとって体重が増えれば消えます。
西園:体重が低いと精神科の薬の副作用が出ることもあります。

質問者3:大学2年の娘が、高2の冬から、肝臓の悪い夫の食事を一緒に食べさせたからか、カロリーを気にするようになった。高3の夏、保健室の先生に40kgを切ったら入院と言われた。どこへどう行ったらいいかわからず、小児科から紹介された男性医師にかかったが、相性が悪く、行くのは嫌と言う。165cm、38kg。2回目からはひとりで行っている。受験生なので塾に行きはじめ、帰宅が遅いので夕食も遅い時間になる。パンひとつ買うにもいちいちカロリーを気にする。2年くらい前から自分で夕飯をつくる。小学生から建築家になりたいという夢があったが、ちがう学部に行ったが、合わないと感じる。受け直していいといっても自信なく、ずるずると学校へ行っている。自分で体重とカロリーを記録しているノートに「集中力がない」と書いていた。どうしたらよいか。
鈴木:食べ物を自分で管理することなど、すべては「やせ」から発する症状です。摂食障害は人生障害です。人生が少しでもうまく行っていないとなるので、お父さんの食事はただのきっかけです。食べる食べないではなく、人生の立て直しが必要です。頑張って卒業してしまうか、学部を転部できないかを大学に掛け合ったりと、方法はいろいろ考えられます。大事なことは、「決して今すぐに結論はいらない」ということです。やはりまだ若いので、ちょっと光がさすような方向が見えるだけで変わることもあります。希望しない学部に進学した人で推薦入学のために大学をやめられず、学部を変更してもらった例があります。これならいけそうとめどが立つだけでガラッと変わります。いろんな道を考え、工夫することです。危ない宗教はすすめませんが、キリスト教に入信して治った人もいます。
西園:本人は人生に悩んでいて、疲労感を感じて「このままじゃいけないかも」と困っています。大事な選択は今の体力ではできないので、もう少し元気になった状態で判断をすることが大切です。また、建築学部に行った人がみな素晴らしい建築家になるわけではありません。主婦になる人もいます。今やっている勉強のいいところが広がるような大人の会話をするとよいと思います。
小原:考えることができるギリギリの体重を何年も保っていられたことは立派です。たとえば、「30歳になった時の理想の生活は?」という質問をしてみると、いろんなことを言いますが、本音はまた別ということもよくあります。いい子で頑張らなきゃと思っているので、素直に言えないこともあります。家族だけで相談に来ていただくこともよいでしょう。

質問者4:拒食症を自宅で療養しています。ちょこちこょ食べか夜食で摂るか、消化のいいものを食べる、ほかの人と一緒に食べる、など、おすすめの食事のとり方はありますか。
鈴木:あなたのお好みが「ちょこちょこ食べ」なら、それでいいのです。食べるのが苦手な病気なので、ほかの人がどう言おうと、自分が好きで得意なことでないと、戦えません。

質問者5:当事者会への参加はいいでしょうか?
鈴木:とてもいいです。自分で勉強して選択できる。あなたの勇気が嬉しいです。
西園:ご自分の病気について勉強するのはいいことです。是非参加してください
小原:勇気があります。治った患者さんの話を聞いたり、患者さんどうしの自助グループもあります。自分に合えば行く、合わなければ必要ありません。

質問者6:高1の娘です。部活の人間関係で悩んで、登校前にお腹が痛くなります。便秘がどんどんひどくなってグレープフルーツとヨーグルト150kcalほどしか食べられない。2年のときに退部しました。158cm、37kg。左の脇腹が痛くて、ちょっと食べるとおなかいっぱいになります。どんなものを食べたるとよいでしょうか、また下剤は使用してもいいですか? カウンセリングは行っています。父親との関係も悪く、小さいころ蹴飛ばされたことがあり、顔を合わせません。
鈴木:拒食症では便秘は必発です。ただ、便秘がよくなったら食べられるかというと、卵が先か鶏が先かわからないのです。胃から入った食物は2時間で腸に送られますが、動きが悪いと3日前の食べ物がまだ入っていたりします。軽い下剤をすすめます。その体重なら慌てなくても大丈夫ですが、体重が減り続けるようなら、お嫌だとは思いますが、入院も必要です。エレンタールという高カロリーの栄養剤もありますが、薬局においしいゼリー状の栄養剤があるので、朝から夜までかけてそれをチュッチュと吸っていればOKです。
小原:部活のストレスは、心で思っている以上にものすごく嫌なのかもしれません。カウンセリングに頑張って行っているのは立派です。考えないで身体に出している見たくないものを心で感じるのはつらい作業です。お父さんと会わないのはいい対処法です。お父さんに謝ってもらうのもいいでしょう。
鈴木:体重が減るとどんどん悪い子になりますが、そのほうが治ります。不満が胃腸に出ています。体重や症状はバロメーターです。