こども時代の病気の意味と予防接種について アントロポゾフィー医学の観点から

12月7日、横浜市綱島にあるアウディオペーデにて、予防接種についてアントロポゾフィー医学の観点から小児科医の小林啓子先生のお話を聴きました。尊敬する横田直美先生とご一緒です。

アントロポゾフィー医学は、ルドルフ・シュタイナーの思想をもとにしており、ホリスティックな医学を目指す医師たちによって日本でも実践が行われています。多くの病院で受ける治療と異なる視点はあるものの、決して現代医療を否定していないことは、その他のまともな代替医療と同じです。

シュタイナーの名は、子安美知子さんが書かれた『ミュンヘンの小学生』が1970年代に大きな話題を呼んだ際、たくさんの人に知られることになりました。その独特な人間観をまったく知らない教育者はモグリと言われてもしかたがありません。シュタイナーの哲学には魂と身体について、ひとつの重要な見方が提示されており、人間相手の職につくからには多少なりとも勉強すべきものだからです。

魂(spirit)を問題にせずに人間を語ることは不可能である――これに気がついている医師たちは、病気と患者を見る際、とくにそれが小さな子どもである時、魂の発達にもきちんと目を向けて診療を行います。アントロポゾフィー医学を柔軟に取り入れようとする医師は、表面に表れた症状の背後にあるものに耳をすませます。子どもがどの発達段階にあり、その病気によって何を獲得しつつあるのかという意味やメリットをも探ることが、診療の重要な部分を占めているのです。アントロポゾフィー医学では、健康とは、病気の発生を排除するものではなく、病気を経過したからだは、より高い段階の新しいバランスを獲得すると考えます(私の好きな野口整体と同じです)。

「スピリチュアル」という言葉は、WHOの健康の定義に含めることを検討されたこともあり、どんな人をも形づくる重要な要素であることは疑いようがありません。目に見えるものや物質以外のものが、人間にどれほど大きな影響を及ぼしているか、私たちは知っています。真摯な治療家たらんとすれば、スピリチュアルな要素を大切にするのは当然ゆえ、わざわざ「スピリチュアル」を強調することもないのです(この点、「スピリチュアル」を連呼する人は、誰でもかえって妙だと私は思っています)。

この日は、子ども時代に大切なことについて語られました。

・子どもの「魂」や「精神」という本質が、「からだ」の中にきちんおさまること
・自分が自分のからだの中にあることを「居心地よく」感じること
・親からの遺伝的な素質が自分に合ったものに作り変えられていくこと

小林先生によると、小児の感染症の症状として現われる発熱や炎症は、免疫能を高めて体が異物と戦っていることであり、大きな害があることはほとんどないそうです。つまり、その病気を、成長途上で大きな意味をもつひとつの現象ととらえることができます。姪が小さな頃、高い熱を出して坐薬で解熱剤を入れたとき、「熱って下げていいのかなあ」と言って驚いたことを思い出しました。子どもがこんな本質的なことに自分で気づくこともあるのです。

しかし、子どもという弱い存在にとって、取り返しのつかない重い感染症を予防接種で防ぐことは大切です。予防接種の目的は、あらかじめ特定の感染症にかからないことと、重症化させないことの2つです。また、予防接種によって感染症による死亡は激減しましたが、予防接種には、病気のもつ「健康を高める」という機能がないことも事実です。

公衆衆生看護の教科書をつくっていた頃、予防接種の種類と接種時期を確認してはいましたが、それでも小学校入学までに受けるべき予防接種が38回もあるとは気づきませんでした。まして、以前は保育所や幼稚園に入る前でよいとされていた麻疹・風疹(MR)やおたふく風邪、水ぼうそうの接種も、1歳で受けることが勧められているのですから、小さな子をもつお母さんたちが混乱するのも無理はありません。

もうひとつ、時期の定められた定期接種は無料なのに対し、個別に接種を受けようとすると保険が効かないことも、受けなければならない気持ちにさせられる大きな理由です。もしもその予防接種を受けさせずにいて、子どもが髄膜炎のような重い病気にかかったりすれば、自分を責めるだけではすみません。親にはいつもそんな苦しみや悩みがあります。さらにワクチンの副作用がないとも限りません。わが子に、いつ、どんな予防接種を受けさせるべきかは、大きな問題です。

しかし、小林先生はこう言われます。
「最も重要な信頼は、子ども自身の『個』への信頼である」と。
「どんな決定にも負の面が存在します。その否定的な作用とバランスをとり、それとともに生きることができるかということです」
難しいことですが、子どもの「個」の強さと成長を信じ、脅されて不安から行う決定をできるだけ遠ざけることが、親に求められる姿勢なのでしょう。

フロアからは、「病院でくれる山のような薬は必要でしょうか? 実は、子どもは使わずによくなったのです」とか、「発熱と自我との関係をどう考えればよいでしょう?」などの質問が発せられました。先の質問には小林先生から、「病院の先生に質問してみればいいですよ」という答えが、あとの質問には隣にいた神之木クリニックの山本忍先生から、「熱や痛みは、自我を確立するために寄り添ってくれるもの。不安からいたずらに熱を下げるのではなく、人生全体で見ると熱には重要な意味があることを知ってください」という答えが伝えられました。

(参考)
WHOの健康の定義
http://www.japan-who.or.jp/commodity/kenko.html

日本日本アントロポゾフィー医学のための医師会

アントロポゾフィー医学とは