認知症予防学会(2)――シンポジウム・生活習慣病と認知症

9月29日の午前は、予防が最も力を発揮する生活習慣への介入について、新潟大学・池内健氏、京都府立医科大学・栗山長門氏、大阪大学・里直行氏の3人による講演が行われた。認知症発症の原因としては、遺伝など先天的なもの、加齢、生活習慣の3つがある。はじめの2つはどうすることもできないが、唯一意志によって変えることができるのが生活習慣(life style)である。

近年、いわゆる生活習慣病の予防改善が認知症の予防につながることが明らかにされている。

◆糖尿病が認知症リスクを高める
糖尿病や高血圧、脂質異常症(高脂血症)、肥満など、主として生活習慣によって生じる病気や症状を放置しておくと、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる。中でも、糖尿病がある人の認知症発症リスクは、ない人の1.5~2倍にのぼることが、日本の健康問題調査に重要な福岡県久山町での長期の調査研究や、ロッテルダムでの研究から明らかにされている。世界的な医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナルオブメディシン」でも、糖尿病でない人に比べ、糖尿病のある人の4分の1に認知症発症のリスクがあることと、糖尿病患者がしばしば陥る低血糖も認知症のリスクのひとつであることを報告している。

アルツハイマー型認知症の一因とされているものに、脳内でアミロイドβというタンパク質が付着凝集した老人斑がある。一度できると溶けないこの老人斑は、認知症の必要条件であるが必ずしも十分条件ではない。他に神経細胞の軸索という部分に存在するタウ蛋白がリン酸化することで起きる神経細胞の変性や、脳の萎縮も発症の要因となる。

糖尿病は、糖の代謝がうまくいかず血液中の糖が過剰になることから動脈硬化や神経、眼、腎臓などに障害を引き起こす生活習慣病の王様である。従来は、脳を除く体内を循環する血液の状態は、俗にBBBとよばれる血液脳関門(blood brain barrier)に隔てられ脳に影響を及ぼさないとされていたが、体内の血液の状態と脳の状態に関連があることや、血糖を調整する酵素であるインスリンがさきのアミロイドβと互いに影響し合うこともわかってきた。ここから、生活習慣病を予防することが認知症予防にもつながるという明解な論理が導き出された。

◆生活習慣に気をつければ認知症は予防できる
認知症のリスクを高める因子として、①糖尿病、②中年期の高血圧、③肥満、④身体不活発、⑤喫煙、⑥学習・教育機会の不足が挙げられる。どれをとっても日頃の生活の積み重ねから起きてくる状態であり、改善の余地があることがわかる。これらの因子がひとつあるだけでも危ないのに、まとめてもっているケースも少なくない。不摂生から病気を招いて腎障害にまで至り、透析を受けて医療費高騰にひと役買ったり、認知症になったりするくらいなら、いさぎよく生活を変えるのが賢明である。

ひとつの手立てとして運動の有効性はよく知られており、厚生労働省も2014年から65歳以上1万人を対象に4年間の追跡調査を行うことを決めている。次に、「地中海式ダイエット」に代表されるような食生活の採用がある。これは、毎日果物、野菜、豆類、乳製品と鶏肉、魚介類をとり、卵や甘い物を週に数回、牛、豚など赤身の肉を月に数回摂るというもので、高齢者の記憶障害に効果があるという。

運動と食事以外に市民講座ですすめられていたのは、前頭葉活性化のために意識して行う創造的な活動で、「短歌や俳句、日記、読書(音読)、運動、笑うことなどは大いに有効」(鳥取大学・浦上克也氏)といる。また、前日の空き時間の雑談では、NPO法人日本認知症予防研究所の國分恵子所長から「キョウヨウとキョウイク」の大切さを伺った。「教養、教育ではなくて、『今日、用がある』『今日、行くところがある』の意味」である。人間は、誰もがどこかに出かけて人と接したり、やりとりすることが健康を保つ大切な要素である。人との会話もなすべきこともない生活は、年齢を問わずたしかに心身に悪いものだと思った。