般若心経:意識を考える

今年2月、私は90歳になりました。戦前と戦後の二つの風景を生きてきた人間として、現代の日本について思うところがたくさんあります。

戦後日本の大きな特色のひとつは、マルキシズムの影響です。
この思想が、どれだけ日本という国を変化させたか、戦後生まれの人たちには理解できないかもしれません。

大学時代に経済学を専攻した私は、科学や哲学を発生源流に戻って見直すようにしていました。

調べるうちにわかってきたのは、世界が、いかに宗教の影響下にあるか、ということでした。私たち日本人は、この点、あまりにも無自覚です。そして、人生は、科学や哲学では解決できない問題に満ちています。

マルキシズムが前提とする「科学論」や「科学的」社会主義という認識や分析では、人生に起きるさまざまな現象を説明できません。意識を物質としてとらえることは、誤りだと思います。

まして、複雑な現象を個々の要素に分ければ理解できると考える要素還元主義(または物質主義)だけが科学ならば、1960年代に登場した「ベルの定理」(注)をどう理解すればよいでしょうか。

戦後の日本は、とくに冷戦後、近視眼的に経済至上主義の道を歩んできました。
偏った歴史観と文化観が支配的となり、一人ひとりの人が「自分が日本人である」ことの意味をきちんと考える機会をもたないまま、危機的状況が進行しています。

自分は、この世界に、なぜ、生まれてきたのか。
自分とは何か。いま、ここで、自分はいったい何をしているのか。

人生において、誰もがこのような問いをもちます。
にもかかわらず、日本では、日本を否定するような教育が行われ、社会は目先の損得、エゴイズムを助長するものとなりました。これが日本人の意識に影響を及ぼしています。

仏陀(ぶっだ)は、人種や宗教、身分、学識、権力、財産にかかわらず、どんな人も彼岸に渡ることができると説きました。その鍵は、私たちが生きる「縁起(えんぎ)」の世界を支配するエゴイズムから意識を解放することではないか――そのような視点から、般若心経の「縁起(えんぎ)」と「空(くう)」の関係を整理しました。

昨年出した第一弾の『あなたがはじまる般若心経ver.1』に続き、今月発売された『あなたがはじまる般若心経ver.0』では、さらに深く意識の問題に踏みこんでいます。

本書の編集に際し、場の研究所所長の清水博先生、柳生新陰流の柳生耕一先生、また、『ver.1』に引き続き、大分グローバリズムクラブの長岡臣輔氏のご助力をいただきました。ここに深謝いたします。

詳しい情報は明窓出版のサイトAmazonのサイトで見られます。

 

(注)ベルの定理 1964年に、イギリスの物理学者ジョン・スチュアート・ベルが発見した。
「いったん結びついた二つの粒子は、宇宙の果てまで引き離されても、片方に変化が生じると、他方も瞬間的に変化する」というもの。